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モーリス(1987)人生で何を選び、何を失ったのか

あの名作が4Kで蘇る

4Kデジタルリマスター版で再視聴。素晴らしかった。大人になった今見ると、より胸に迫るものがあった。
美しい景色、美しい調度品、美しい青年たち。画面が隅々まで綺麗で上品。そして誰にも訪れる人生の選択の話でもあった。

モーリス とクライヴ
上流階級出身のクライヴは地位や名誉を捨てられず、モーリスとの愛に飛び込めなかった。世間体とかそんなレベルの話ではない。当時の英国では同性愛は犯罪だった。
この二人の関係性においては、髭が世間並みの男として生きることの象徴のようだった。ケンブリッジを去りビジネスに生きるモーリスは口髭を蓄えていた。一方、つるりと美しい顔のクライヴは己の性癖に悩んだ挙句、家名を継いで政治家として生きる道を選択する。妻を迎えた彼は髭を生やす。クライヴに愛を拒絶されたモーリスは彼と入れ替わるように髭を剃り、大学時代のように若々しくナイーブな表情を見せる。

モーリスの次の恋人はクライヴの使用人アレック。黒髪のなかなかの美青年で、少しだけクライヴに系統が似ているところも切ない。クライヴとはプラトニックだった彼は、初めてアレックと全てを与え合う。何もかもを捨て、階級差も超えてアレックとの愛に生きることを選んだモーリスが眩しい。

選ばなかった道、失った愛、人生の選択
ラスト、モーリスの選択を知ったクライヴの表情が切ない。かつて、クライヴの部屋の窓から忍んできて「君が好きだ」とキスをしたモーリス。クライヴは若い頃のモーリスの笑顔を思い出す。窓の外から「来いよ」と笑いかけるモーリスの笑顔は、もう遠い日のものになってしまった。クライヴは、愛に飛び込めなかった。その時はもう過ぎてしまったのだ。このシーンでは涙が出た。
タイトルロールはモーリスだが、実はクライヴこそが主役だったのだな、と今回見返して思った。クライヴにとって、モーリスは選ばなかった道であり、失われた人生最大の恋であり、こう生きられたかもしれないもう一人の自分だったのではないだろうか。
本作のジェームズ・アイヴォリー監督は「君の名前で僕を呼んで」の脚本家だ。2作品を合わせて見ると、より一層奥行きが増す。

クライヴを演じるヒュー・グラントの美貌が凄まじい。登場シーンから尋常でない輝きに、観客はモーリスと同じく一瞬で心奪われてしまう。金髪のジェームズ・ウィルビーと寄り添う姿はドキドキする。また、アレック役のルパート・グレイヴスもこの頃は若々しくて可愛い。