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宝塚・音楽・映画・時々ジャニーズ

銀ちゃんの恋(1996、月組)

銀四郎:久世星佳、小夏:風花舞、ヤス:汐風幸、橘:樹里咲穂
 
CSの録画を何度も見てしまう。何度見ても号泣。名作だ!
つかこうへいの原作がとんでもなくいい、という大前提はあるもののよくもまあこれを宝塚の舞台にかけたものよ。
タカラヅカって偉大なるマンネリズムという側面がある一方、どこよりもチャレンジングな劇団でもある。だってこの話、女性ばっかりの劇団でやろうと思うか普通。
 
久世さんは実力派だが地味なルックスで、いまいち印象が弱かったのだが、わがままで愛すべき芝居馬鹿の銀四郎を男くさく演じてぴったり。
途中のギャングのダンスシーンで「あらなんで本当の男がいるの?」と一瞬思ったくらい内面から男。
風花さんは松坂慶子の物真似みたいになっちゃってるのがちょっと気になるが、それでもいい。とてもいい。絞り出すような台詞まわしに泣かされる。元清純派の、トウのたち始めた女優というかげりがちゃんと出てた。
汐風さんのヤス。屈折したプライドが可笑しくも哀しくてこれもよかった。子分に見栄をはる姿や、小夏に当たり散らすやり方が銀ちゃんそっくり。この人も佇まいにちょっと泥臭いところがあるのだが、この役にはそれがハマっている。
 
蒲田行進曲」は、演じることへの賛歌で終わる。
数々のスターや、スターの夢破れて消えていった名もなき大部屋役者達、芝居を支える裏方や、楽しみに待ってくれるファンや、、、
そんな芝居を愛する人たちみんなへのアンセムであり、レクイエムだ(そういう意味では、ディヴィット・リンチ「マルホランド・ドライブ」「インランド・エンパイア」とも通じるものがある)。
100年近く無数の夢を演じ続け、無数のスターを生み、エンターテイメントに徹してきた宝塚がこの芝居をやる意味を思うと、エンディングのみんなの笑顔に泣けて泣けてしょうがない。
羽根もスパンコールも大階段もシャンシャンもない。だが素晴らしい舞台だ。ぜひ見てほしい。
 
余談だけど、この宝塚らしからぬお芝居で最もスミレコード的に冒険だと思ったポイントは四畳半アパートでもちゃぶ台がえしでもすき焼き屋のくだりでもなく、ヤスがお嬢さん育ちの小夏の非常識を罵る、「ガキの頃からバレエとかピアノ習うのも結構だけどよ」って台詞。
基本的に「ガキの頃からバレエとかピアノ習ってきた」女性達ばっかりだもんね、ヅカって。