シネマと宝塚と音楽と

宝塚・音楽・映画・時々ジャニーズ

エリザベート(2007 月組)

トート:瀬奈じゅんエリザベート:凪七瑠海、ルキーニ:龍真咲
 
定番作品の場合、基本的に物語の完成度が高いわけで、誰が演じてもそれなりに見られるだろう。
ただ、それだけに役者の技量があからさまに見えてしまうし、繰り返し再演される分、比較対象が多いから大変だ。
ことにエリザベート雪組初演が神懸かり的に凄かった。役者が作品にぴたりとはまり、一路さんの歌唱力は圧倒的で、花總さんの熱演も素晴らしかった。
そしてこの月組バージョン。
 
トートのキャラクター造形が、この作品の大きな見所だ。
初演の一路さんは格調高き黄泉の帝王、滅び行く王朝にとりつく由緒正しい魔物。
生身の男には見えない。要はシシィを手に入れても、ベッドへ連れていく感じが全くない。
対して瀬奈じゅんさんは、まるでロックスターのようなかっこよさ。死神は死神でも、生々しさを残した男っぽさがあり、このトートならシシィをどうこうしそうに見える。
ほんと色気のある人だ。
 
瀬奈さんは本当に立ち姿が美しい。
肩幅と腰がしっかりと決まり、細すぎない長い脚がまっすぐに伸びる。これ以上小さいとバランスが崩れるぎりぎりまで顔が小さい。
公称168センチというから、男役としては決して大きい人ではないが、力強く逞しい舞台姿が実に魅力的だ。
瀬奈さんトートは人情味と非情さが入り交じる複雑さがとてもいい。
名台詞「死ねばいい!」やルドルフの骸をかかえてほくそえむ人でなし感。
「死は逃げ場ではない」の決め台詞には死神の矜持を感じる。
トートは決して強奪者や支配者ではない。甘い歌声とともに誘惑者として現れる。
ラスト、エリザベートとともに昇天するトート閣下の不気味な微笑み。ああ、これって決してハッピーエンドじゃないんだよな、と改めて感じさせる。
 
霧矢大夢さんの皇帝陛下は、貫禄があり素晴らしい。
お母ちゃんには押さえつけられ、嫁には逃げられ、息子を失い、国政は大変という
考えてみれば気の毒な役だ。
芝居の中では常に眉間に皺がよっている役なので、フィナーレの晴れやかな表情が清々しくてうっとりする。
若々しい姿に戻ったきりやんが銀橋で歌う「愛と死のロンド」はめちゃくちゃ上手くて感動的だ。この人の微笑みは品があってほんとに素敵。
 
凪七さんはおちょぼ口の可愛い顔とスリムな体型で、女役に違和感がない。
ただ、私はどうしても娘役の演じるエリザベートが見たい、と思ってしまう。
古い伝統の王朝に嫁ぎ、自由を求めてもがき苦しむシシィの心は、男役を引き立たせることを常に求められつつ、制約の多い中で自身の輝きを追求するタカラヅカ娘役こそが表現してほしい。
 
龍真咲さんは薄汚れたルキーニを演じるには可愛すぎ、スマートすぎるかと思ったが、ちょっと若々しいものの、狂信的なアナーキスト役がなかなか似合っている。
目が大きいので、白目を剥いたときの表情がいい。
 
ということで、瀬奈さんのかっこよさに心底痺れた。上手い役者さんだ。
イメージ 1
かっこいいかっこよすぎる