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ジョーカー(2019)は悲劇か喜劇か

恐ろしくも美しい映画

最初から最後まで緊張感が途切れず、見入ってしまった。映画館全体がそんな感じで、息をつめて静まりかえっていた。
アメリカで上映に物言いがつくのもわかる。確かに物議を醸す内容だ。

 

デ・ニーロに言及するまでもなく「タクシードライバー」「キングオブコメディ」が下敷きになっている。そして、世界的な格差問題がベースに鳴り響く。架空の街ゴッサムシティの、やや前の時代が舞台だけど、これは今の物語であり、私たちの物語だと思う。好き嫌いが別れるかもしれないが、凄い映画だ。

また、画面が格調高い。暴力的で鬱々とした内容だけど、美しい映画だ。

ポップさのかけらもないジョーカー

今まで見てきたジョーカーたち。ジャック・ニコルソンもジャレット・レトもあのヒース・レジャーでさえ、どこかポップだった。

 

しかし本作のジョーカーであるアーサーにはポップさのカケラもない。ひたすら重く切なく悲しい。道化師の可笑しみと悲哀、これでもかと虐げられるアーサーの姿に「もうやめてくれ」と見ているこちらが耐え難くなる。「俺の人生は悲劇だと思っていたが、喜劇だったんだ」と笑うアーサーがいたたまれない。


妄想と現実、正気と狂気が入り混じる。あんな若い健康そうな女性がアーサーのような陰気な男に好意を寄せるか?と訝しんでいたら、案の定・・・このくだりは本当に辛い。

ジョーカーに感情移入してしまう恐ろしさ

散々踏みつけにされ続ける彼を見せつけられるので、ジョーカーとして覚醒する彼を少し応援したくなるところが怖い。憧れのコメディアンのTVショーへ向かう日、道化師のメイクとスーツ姿で階段で軽やかに踊る彼は、優雅で美しかった。

ホアキン・フェニックスが凄い。筋肉質なのに不健康で怖さを感じさせる痩身が、昔のデ・ニーロのようだ。若かったデ・ニーロと違い、中年なだけに悲哀がいや増す。見ていて心がざわざわするほどのはまり役だった。


また、母役が「アメリカン・ホラー・ストーリー」のフランセス・コンロイ。弱さが不幸を呼び込むタイプの毒親を演じてこんな怖い人はいない。妙に儚げな声質が見ているこっちも不安にさせる。凄い女優さんだと思う。


こんなに辛く悲しいジョーカーはいない。しかしこの後の彼がどうなったのか、小さかったブルース少年が成長し、ジョーカーとどう合間見えるのか、物語の先が気になって仕方がない。